不死鳥

「趙の武霊王の庶子、平原君趙勝ちょう しょうの異母兄」
 周りの者たちがどよめいた。
楽毅がく きの娘婿、李牧り ぼくの師」
 そんな馬鹿な? 秦軍の者たちは動揺した。
 秦王の前に連れてこられた趙軍捕虜の男は、どう見てもそのような年には見えなかった。まだ二十代、せいぜい三十前後にしか見えなかった。胡服が似合う長身の美丈夫である。
 なるほど、あの「英雄」武霊王の血を引くだけの事はある。
「『狂公子』趙翔ちょう しょうあざな子鳳しほう。信陵君魏無忌ぎ むきの盟友にして『守り神』」
 趙翔と呼ばれた男は秦王の目をしっかりと見据え、言い放つ。

「ならば、この俺を殺して、五体バラバラにしてさらしものにするがいい。それでお前が欲しいものが分かる」

 趙の王族の生き残りである男は、その言葉通り処刑され、邯鄲かんたんの街で死体をさらされた。
 その夜、秦王の枕元に彼が立った。
「古き秩序は新しき秩序に取って代わられる。それは、我が母方の曾祖父である商君(商鞅しょう おう)がしばしば口にしていたらしいが、いずれはお前の秩序も別の何者かに取って代わられる。俺の仕事はそいつらを助ける事だ」
 翌朝、彼の死体は消えていた。



「あれはいずれにせよ、天下統一を果たすだろう。そうなれば、あの男が次に欲しがるものが何なのか?」
 趙翔…子鳳はある街の酒場で一人の男と出会っていた。その男は韓の宰相の息子で、名を張良ちょう りょう、字を子房しぼうという。
「あの男はいずれにせよ、『迷う』。今は亡き文淵ぶんえん殿の助言通りに」
 文淵…子鳳の友人であった韓の公子かいは生前、子鳳に秦王に対する秘策を授けていた。

 あなたの「特異体質」が、あの者に「迷い」を植え付けるでしょう。

「楽将軍の主君だった燕の昭王のような名君でさえも、不老不死への誘惑に取り憑かれたのだ」
 それぞれのやり方で、秦への報復を果たす。どれだけの月日が経とうとも、きっとやり遂げてみせる。
 子鳳は自嘲気味に言う。
「今、こうして生きて飲み食いしているけども、我が曾祖父と同じように『死体』を車裂きにされたのは皮肉だな」
 子鳳は苦笑いした。