フォースタスとアスターティ

 かつての地球人の子孫たちが住む惑星の一つ、アヴァロン。この星を統治するアヴァロン連邦の首都、アヴァロンシティ。この街に一組の恋人たちが住んでいた。
 男の名はフォースタス・チャオ(Faustus Chao)、30歳。父は中国系とアイルランド系のハーフで、母は日本人。職業は作家。
 女の名はアスターティ・フォーチュン(Astarte Fortune)、20歳。プラチナブロンドの髪に空色の目の白人美女で、現役大学生ミュージシャン。
 同棲中で婚約中のこの二人は一見、ごく普通の才子佳人カップルに見えるが、実は大きな秘密があった。

 かつて、地球では人口爆発が問題になっていた。しかし、日本ではその世界的問題を無視して「少子化問題」が取り沙汰されていた。
 そして、ある男性政治家のセクハラ失言に対して、誰かが皮肉を言った。
 「ならば、生身の人間に近いセクサロイドでも作った方がいいんでないかい?」
 そして、なし崩しにクローン人間が合法化され、新たな生命、人造人間が生み出されるようになった。
 バール(Baal)、女性形はバーラット(Baalat)。旧約聖書に登場する異教の神々に由来する名称の彼らは、優れた知能と身体能力を持っており、ある者は兵士に、ある者は政府要人などのボディガードの任務に就くが、中には売春婦(夫)にされてしまう者もいる。
 彼らは普通の人間に比べて容姿や体格に恵まれた者が多く、また、老化も遅い。基本的に生殖能力を持たないとされるが、一部のバールたちはそれを持っていると言われる。

 フォースタスとアスターティの関係は、一つの実験だった。
 人間とバールたちとの融合。徐々に弱まりつつある人間の「種」としての活力を蘇らせるためにも、新たな「血」を入れよう。
 しかし、フォースタスとアスターティの絆はそんな思惑など関係ない。フォースタスの母ミサトは研究機関〈アガルタ〉の一員で、アスターティが人工子宮の中にいた頃から彼女を見守っていたが、ミサトは二人にこう忠告していた。
「とりあえず、アスターティが大学を卒業するまではちゃんと避妊してね。この時代になっても、できちゃった結婚に対して批判的な人はいるから」
 二人はその約束を守っている。