Sympathy For The Goddess

 彼女は世界一裕福な貴婦人ladyだった。そして、世界一美しい女だった。
 さて、これでローリング・ストーンズの名曲「悪魔を憐れむ歌」を連想した人もいるだろう。多分、君の世代にはあまり馴染みのない曲だろうけど、いい曲だよ。

 とりあえず、彼女の名前をわざわざ呼ぶ必要はない。なぜなら、彼女は全世界で信仰されている「無数の名を持つ女神lady」なのだからね。
 イシュタル、アスタルテ、アフロディーテ、他にも色々と呼び名があるね。そう、「運命の女神」とも呼ばれているよ。
 何しろ、あの商鞅しょう おうの遺体が車裂きにされた時にも、ランスロットがアーサーの救援に間に合わなかった時にも、そして、松永久秀が爆死した時にも、彼女はそこにいたのだからね。ますます、あの歌の「悪魔」に似ているだろう?

 多分、ブライアン・ジョーンズやカート・コバーンが亡くなった現場にも、彼女は居合わせただろうね。おそらく、マリリン・モンローやジャニス・ジョプリンの最期を看取ったのも彼女だ。

「白馬は馬に非ず」なんて言葉があるけど、いわゆる「アブラハムの宗教」では「女神は神に非ず」だ。つまり、女神という存在は「女神」である事それ自体が「悪魔」なんだ。
 おっと、これは何も一神教だけの偏見じゃないよ。一神教圏よりも多神教圏の方がかえって女性差別のタチが悪い、なんて意見も一部にはあるのだよ。欧米でフェミニズムが生まれたのは、他の地域に比べて女性に対する抑圧が「シンプル」だったからさ。つまり、女性が男性たちの支配に対して反抗しやすかったからだ。それに対して、多神教圏の「男社会」はもっと老獪だ。
 そう、日本の「男社会」は意外と複雑だ。「男は馬鹿で単純だ」という女の偏見につけ込んで、女を欺く男は少なくないし、自らのマザコン的心情を武器にする男は多い。「女社会」にも「偽天然」の女の子たちは少なからずいるよね? ファザコン姿勢で年上男を手玉に取る女だって少なくない。それに、日本の女は、ある程度好条件の男を捕まえて安定した幸せをキープしている限りは、他の女性たちの苦労なんて他人事だからね。

 どれだけ世界中のフェミニストたちが否定しようとも、韓非子の言う「君主の妻」は「女」そのものなんだよ。そして、男の「横暴」と女の「打算」の関係は「鶏が先か、卵が先か」なのさ。
 どこぞやの「鋼の結婚詐欺師」は、男を食い物にする犯罪というパフォーマンスによって、精一杯「女」を演じたんだ。どこかのコミュニティサイトで男性蔑視発言を連発して「なんちゃってフェミニスト」を気取る女たちよりはるかに「正直」ではないかい?

 さあ、鏡をしっかり見てごらん。メデューサみたいに、テニスンのシャロットの女みたいに、顔をそむけないで。否定なんかしないで。君と私が「女」の心を持っている限りは、「彼女」はいつでもそこにいるよ。なぜなら、他ならぬ私たちこそが「彼女」なのだからね。