ハルコの夢

 あたしはずーっと口をきかなかった。魔法使いだか、仙人だか分からないけど、ススキノのあるバーで出会った奇妙なじいさんに命じられたからだ。
 どんな目に遭っても、口をきいてはいけない。お安いご用。何しろあたしは子供の頃から「ぼっち」で、おしゃべり相手なんかいなかったのだし。

 スキー学習でクラスメイトたちに雪に埋められた記憶が再現されても、あたしは何も言いも叫びもしなかった。
 体育館の倉庫で何度も男子どもの慰み者にされるのが再現されても、あたしは悲鳴も喘ぎ声もあげなかった。今のあたしの仕事だって、あの頃と似たようなものだし。
 ましてや、歴代彼氏たちのDVをトコトン受け続けても、あたしは声一つあげなかった。すべてはただ一つの望みのために。

 この世の全ての女たちに対して優位に立つ事。どれだけ男たちにヒドい目に遭わされても、あくまでも「女の敵は女」だ。あたしは、この世の全ての女たちに勝ちたい。義務教育時代に男子どもにいじめられた時だって、女子どもは陰で(時には大っぴらに)あたしをバカにしていたのだし、あたしも自分以外の全ての女どもを軽蔑していた。
 某女性有名人がインタビューで語っていたように、あたしは世界中の全ての女たちに嫉妬される立場を得たいのだ。
 類い希な美貌と、富と権力。あたしはこの世の「女王」になりたい。どうせ女だったら、大なり小なりあたしと同じ欲望があるハズ。そして、あたしはどんな女たちよりも正直な「女」だ。

 そのうち、現時点で最後の彼氏があたしの首を絞めた。そう、あたしが今の仕事に就いたのは、コイツの女遊びと借金のせい。この三流ホストのせいで、あたしは死んだ。

 気がつけば、そこは中島公園の近くのアパートの一室ではなかった。まさしく、昔の地獄絵そのものの世界だ。もちろん、あたしは黙っていた。
 そこであたしは見たんだ。あたしが不幸になった元凶の女。都合のいい時だけ母親面しやがって。案の定、コイツはあたしに助けを求めた。
 そう、あたしが今まで黙っていたのは、コイツに対して怒りをぶつけるため。あたしはボキャブラリーの限り、コイツをさんざん罵った。

 それ以来、あたしはススキノのこの場所で地縛霊として居着いている。もちろん、あたし以外の女どもを不幸に陥れるために。そう、あたしは今でも世界で一番正直な「女」よ。