後書きに代えて、趙襄子の挨拶

 バーナード・コーンウェルの小説に出てくるランスロットめ、智伯ち はく以上のロクデナシだな。

 …おっと、失敬。まずは自己紹介だな。

 私は姓はえい、氏はちょういみな無恤むじゅつおくりなじょう。世間では趙襄子ちょうじょうしと呼ばれる者だ。
 ただし、戦国七雄の趙王室は私の直系ではない。我が兄・伯魯はくろの血統だ。そして、この『Avaloncity Stories』という支離滅裂な物語の集まりに登場する三人の「フォースタス」もまた、我が兄上の子孫だ。

 さて、私は本来ならば、春秋・晋の趙家の頭領にはなれなかった男だ。しかし、私は兄上を差し置いて、父の後継者に選ばれた。そんな私に難癖をつけたのが、智伯だ。
 智伯は才色兼備の偉丈夫で、英雄の風格があった。しかし、この男は自らの優れた資質を鼻にかけており、他人を見下す癖があった。それで、斉の田常でん じょうをも怒らせた。

 智伯は、晋の重臣たちの中で特に強力だった。そして、我らが趙氏も含めた勢力争いが起こった。智伯軍は韓氏と魏氏を従え、我が趙軍が立て籠もる城を攻めたが、韓氏と魏氏は我ら同様、智伯を恨んでいた。それで、我が使者の説得によって、この二つの氏族の軍勢は我らが味方となり、我らは智伯を滅ぼす事が出来た。

 その智伯の仇を討とうとした男がいた。その名は豫譲よ じょう。彼は囚人や病人を装って私に近づき、私を殺そうとした。しかし、おとなしく殺されてやる訳にはいかない。私は豫譲に自分の衣服を与え、豫譲はそれを切り裂いた。
 そして、豫譲は笑顔で「これで我が君の恩に報いる事が出来た」と言って、自害した。

 ……。

 多分、彼は自分の存在それ自体が、かつての主君が単なる悪人や小人物ではなかった事の証明になると確信していただろう。あの澄んだ目は、間違いない。

 ……。

 …あ、失礼。前置きが長過ぎた。あの男、豫譲を思い出すたびに涙がにじむのだな。

 さて、この『ファウストの聖杯』という小説は、二代目フォースタス・チャオが主役である。そして、物語の舞台ははるか未来の植民惑星「アヴァロン」が舞台になっている。要するにSFだが、お読みいただいても分かる通り、本格的なSF小説ではない。SF風味の恋愛小説だ。
 作者の自称「変人」が初めて書いた本格的な小説…いや、「本格的」という言葉には語弊があり過ぎるな。初の連続小説『恋愛栽培』はファンタジー風味の恋愛小説なのだが、この作者は、自分が意外と恋愛ものフィクションを好むのに気づいて驚いている。まあ、実生活では恋愛とは縁遠いからこそのないものねだりだな。
 それに、現実の恋愛には結構、打算などの「不純物」が多いからな。だからこそ、損得勘定抜きの純粋な愛情を描く物語は素晴らしいのだ。

 そう、あの豫譲の「信義」のように。

 さて、この物語には姉妹篇がある。その姉妹篇『Fortune』はこの物語をヒロインのアスターティ・フォーチュンの視点から描いたものであり、この物語のさらに先を描く。
 皆様、今までお読みいただいて本当にありがとう。この無恤、不甲斐ない作者に代わって礼を言おう。

 また逢う日まで。いや、次はおそらく別の誰かが作者の代わりに挨拶に出るだろう。では、ごきげんよう。